ビル群を颯爽と歩く。涼しげな表情でカメラを見つめる永遠からは、いささか都会的なムードを感じた。が、本人は都会よりも自然の中にいる時間の方がずっと心地よいという。
「ときどき、東京の空気は本当に汚いなって思います。地元が大阪の田舎の方なので、都会で生活していると息が詰まってしまうんですよね。駅でも、コンビニでも、急いでいる人が多くて、私は急かされるのがとても苦手なんです。だから、時間が空いたら自然がある場所に出かけて深呼吸します。そうすると、リセットできるというか」
友人と会う時も、自然の中へ繰り出す時も、日常的にカメラを持ち歩いているという。写真を撮ることを目的に、旅に出ることもあるのだろうか。
「去年、写真好きの友人と一緒にロシアのウラジオストクに行ってきました。日本から2時間半で行けちゃうから、気軽でいいねって。気温は-20℃くらいでとにかく寒かったけど、空気が澄んでいて気持ちよかったです。シベリア鉄道にも乗れたし、町並みも綺麗でした。ウラジオストクで撮影した写真は、SNSなどにはアップしていません。簡単に消費されてしまう気がするから、もったいないなと思って。いつか展示やZINEとしてまとめる日が来たら、ゆっくり見返したいと思っています」
冬の澄んだ空気と美しい景色に触れたロシアの旅物語には続きがあった。帰り道、大切なカメラが無いことに気づいたという。
「夢中で写真を撮っていたからだと思うんですけど、カメラを忘れてきてしまったんです。しかも、ロシアの流氷の上に……。今ごろは深い海の底にあると思います。幸いにもフィルムは無事だったのですが、まだ使い始めたばかりのカメラだったのでショックでした。それともう一つ、帰って来て驚いたことがあって。ウラジオストクの街中で散策していた路地がたまたま日本のドキュメンタリー番組で紹介されていて、そこが巷で有名な麻薬の取引場所だったことを知りました。呑気に路地を歩き回っていたけど、一歩間違えたら危険な目に遭っていたかもと思うと、ヒヤリとしました」
まだ見たことのない景色を見たい、知らないことを知りたい。不安心よりも好奇心が勝っている彼女のフットワークはいたって軽そうだ。カメラ以外に、旅に持っていく物について尋ねた。
「旅先には小説を5、6冊持っていきます。一番好きな作家は西加奈子さん。西さんの描く、アッパーな闇みたいな世界がなんだか心地良いんです。私は優柔不断なので、本も服も迷った挙句たくさん詰め込んでしまって、いつも荷物はかさばり気味。それと、ノートとペンも必ず持っていきます。絵を描くのが好きなので、スケッチをしたり、小説の中で気に入った一節を書き写したり。列車や映画のチケットを貼ったりもします。3年前から始めた、自分の心が動いた何かを記録するためのノートです。今は15冊くらい溜まっています」
そうして得たインスピレーションが彼女の表現に変わる場は演技なのか、写真なのか。女優としての活動について尋ねると、少しもどかしそうに答えてくれた。
「去年の春から新しい事務所に所属して、演技を真剣にやろうと決めて動き出した途端、緊急時代宣言で止まってしまいました。自分が好きなこと、やってみたいことが何か、頭の中ではわかっているつもりなんですけど、なかなか動けていないのが現状です。でも最近は、少しずつワークショップに行ったり、オーディションを受けています。映画の現場にも入ってみたいけど、写真も続けていきたいし、もっと勉強もしたい。今日のような撮影のお誘いがあったら積極的に参加するようにしています」
飾らない言葉で話す永遠の目は、未来を憂うことなく、未知なる何かに触れることへの希望に満ちているようだ。コロナが終息したら叶えたいことも、やっぱり旅。
「メキシコに行きたいです。ルイス・バラガンが手がけたカラフルな建築を見ることにずっと憧れているんです。あとはインドのガンジス川にも行ってみたいですね。日本とは文化が全然違うから、予想もつかないことが起こる気がして、ワクワクします」